大判例

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仙台高等裁判所 昭和61年(行コ)9号 判決 1987年8月07日

控訴人

上林傳吉

右訴訟代理人弁護士

袴田弘

被控訴人

笹川土地改良区

右代表者理事

金内七郎

右訴訟代理人弁護士

加藤勇

加藤栄

主文

本件控訴を棄却する。

控訴費用は控訴人の負担とする。

事実

控訴人は、「原判決を取消す。被控訴人が昭和五九年五月一二日付で控訴人に対し原判決別紙物件目録一記載1及び2の各土地の換地として同目録二記載1の土地を、同目録一記載3及び4の各土地の換地として同目録二記載2の土地を、同目録一記載5及び6の各土地の換地として同目録二記載3の土地を各指定した処分を取消す。訴訟費用は第一、二審とも被控訴人の負担とする。」との判決を求め、被控訴人は、主文同旨の判決を求めた。

当事者双方の主張及び証拠の関係<省略>

(控訴人の陳述)

一  五七番の換地(以下「換地五七」という。)について

1  不整形田の換地を受けたのは、控訴人のほか上林佐智子、上林正男である。

ところで、控訴人の換地五七の従前地は整形田であつた(プールサイドにも接していないし、クランクもない整形田であつた)が、上林佐智子、上林正男の従前地は不整形田である(特に上林正男の場合はひどい。)控訴人の場合は、従前地が整形田であるにもかかわらず、角が四か所もふえているため、機械化による農作業の支障となつている。上林佐智子の場合は、同人がハウス用地を除外地としたことによる不整形であり、同人が希望した換地である。上林正男の場合は、もともとの土地が不整形であつたことからみればやむをえないものである。

ところが、上林繁一郎、大島金夫、上林正美の場合は、従前地がかなりひどい不整形田であるのに、標準田に近い整形田が換地として割り当てられている。

2  また、換地五七は、一か所にしか落し堰がなく、加えて隣接するプールサイドから水が田に流れこむために、昭和五六年にもう一か所に落し口(排水口)を設けたものの、西半分位の田は乾きにくくなつている。

3  このように、控訴人に対する換地五七は、約三分の一が控訴人の従前地とはいえ、クランク状の欠損部分が存在し、田植機械、トラクター、コンバイン等による農作業の不便、非能率、排水の悪さと従前地が整形田であつたこと等を勘案すれば、不公平であり、照応の原則に反するものである。

二  五六番の換地(以下「換地五六」という。)について

換地五六も、従前地は東西に長い土地であつたが、整形田ということができ、稲を南北の列に植えることができた。控訴人は、初め、原判決別紙図面表示⑯の土地の東側三分の二を仮換地として受けたが、エア抜きの井戸があつたため、農作業に支障を来たしたことから、やむなく換地五六を受けたものである。

しかし、換地五六は、従前地よりもつと細長い土地であるため、稲を東西の列に植えざるをえなくなり、そのため稲が風の関係等で南北に倒れ、稲の穂が地面についてくされやすくなり、コンバインによる刈取りをするにも能率が悪く、農業の生産力が低下している。

三  このように、他の者の換地は、従前地に比し格段によくなつているのに、ひとり控訴人の場合は、従前地に比し、形状も農作業の面においても非能率、不便、排水の悪さ等土地条件の悪化をみている。

(被控訴人の陳述)

一  換地五六は、標準区画に比し細長くなつているが、右土地は控訴人の従前地の所在地であつたこと、公民館等移動の困難な公共建築物の敷地に隣接していること、農道の設置予定地と隣接していること等の事情からみてやむをえないものである。

換地五六は、一時利用の段階では上林佐智子が耕作し、控訴人は別のエア抜きのある田を耕作していたが、控訴人は、本換地の際に、換地五六を割り当てられることを希望したためこれを受けることとなつたものである。

控訴人は、換地五六について耕作機械の使用上の支障、排水の悪さ、風の吹返しによる稲の倒伏等の点を主張するが、いずれも理由がない。

1  換地五六の短辺は約一八・二七メートルであり、標準区画の田の短辺が約三〇メートルであるのに比し短くはなつているが、大型の耕作機械を使つても何ら使用に支障を来たすような状態ではない。

2  排水についても、換地五六には排水口が設置されており、田の面を水平に保ち、必要に応じ田の中にみぞを掘り、あぜに排水口を切れば何ら排水に支障を来たすものではない。仮に控訴人が田の排水に支障があるというのであれば、それは控訴人の田の管理の悪さのためである。

3  また、控訴人が稲の倒伏の被害を被つたとしても、それは吹返しのためではなく、控訴人の稲の育成方法のためである。

二  換地五七も標準区画に比し一部クランク状の部分を含むやや不整形な田になつているが、右土地は控訴人の従前地を含んでいること、一筆当りの面積は標準区画より大きくなつていること、他の者は換地の際一定の減歩を受けているのに比し、控訴人の場合は逆に増歩を受けている等の事情からみて、やむをえないものである。

控訴人は、この土地についても、耕作機械の使用上の支障、排水の悪さ等の点を主張するが、いずれも理由がない。

この土地のクランク状の部分は比較的一辺が大きいため、それによつて耕作機械が使用できない部分が生じたり、あるいは、その使用に特別の苦労をする等ということはない。また、クランク状の部分があるからといつて排水が悪いということはありえない。

三  本件換地処分においては、換地の割当てについて不公平、不合理を故意に作出したということはない。換地五七については、控訴人は最初からその割当てを希望していたものであり、換地五六についても、控訴人は初めは換地の割当てを拒絶していたが、後にはその割当てを希望していたものである。このように本件換地の割当ては最終的には控訴人の希望に基づいて行われたものである。

理由

当裁判所も、控訴人の本訴請求は、これを棄却すべきものと判断するが、その理由は、次のとおり付加訂正するほかは、原判決がその理由において説示するところと同一であるから、これを引用する。

一原判決の訂正

1  原判決一一枚目表二行目から三行目にかけての「主張するが、証人上林勝雄の証言によれば」とあるのを「主張し、原審及び当審証人上林勝雄は」と、同六行目から七行目にかけての「ことが認められるものの、本件全証拠によつても、」とあるのを「と供述しているけれども、当審証人相馬功、同上林善記の各証言と対比するときは、それだけでは」と改め、同八行目の「認めることはできない。」の次に「他に被控訴人が控訴人主張のような約束をした事実を認めるに足りる証拠はない。」を加える。

2  同一二枚目裏一〇行目の「く、」から一二行目の「推認される。」までを「い。」と改める。

二証人上林勝雄は、当審においても、控訴人に指定された本件換地は、従前地より、形状においても、農作業をするについても、自然条件、利用条件が悪く、農業経営に支障がある旨を供述している。

しかし、排水については、当審証人相馬功の証言によれば、控訴人において対処の仕方により容易に解決することができるものであることが認められるし、特に換地五六については、当審証人上林善記の証言によれば、右土地は当初上林佐智子(上林善記の妻)に割り当てられ、後に控訴人の希望をいれてとりかえることとした土地であるが、右上林佐智子はその前の二年間右土地を耕作していたけれども、その間の使用収益に特段の支障はなかつたものであることが認められる。

三当審における新たな証拠調の結果によつても、引用にかかる原審の認定判断を左右することはできない

四土地改良事業は農業生産の基盤の整備及び開発を図る目的で行われる農用地の改良等に関する事業であるから(土地改良法一条一項)、換地を定めるに当つて考慮すべき事項は、用途、地積、等位等の農業生産上の諸条件に限られ、これらの諸条件を総合的に勘案した結果、農業生産力の面において、当該換地が従前の土地にほぼ拮抗しているといえる場合には、各個別の要素について多少の不一致があつたとしても、照応の点に欠けるところはないものと解するのが相当である。この点において、個別性が強い住宅地についての土地区画整理事業における場合とは異なり、農業の生産性の向上という指標の下に各要素のより広範な総合的な勘案が許されるものであり、その結果、従前地と換地とが通常人が考えて大体同一の条件にあると認められるときには、照応の原則に適合しているといつて妨げがないというべきである。

ところで、本件換地は、その形状が、長辺が一〇〇メートル、短辺が三〇メートルの長方形である標準田の場合に比し、不整形であることからその耕作上多少不便があるとしても、それはさほどのものではなく、このような形状の土地を換地として控訴人に指定されることとなつたのは、控訴人が従前所有していた土地の南側の部分に農道が新設されたことによるものであることと、小学校のプールを移動することができないために一部にクランク状のある土地を生じたものであること(なお、この部分は、控訴人が従物所有していた土地につけ加えられた部分である。)、控訴人については形状を考慮して相当の増歩がなされていること等の事実からみると、本件換地はその形状において控訴人に多少の不利益はあるが、換地指定についての諸要素を総合的に勘案すれば、従前の控訴人の土地に照応しているものと認めるのが相当であり、他の関係人の換地に比し、特に控訴人に不利益なものということはできないから、本件換地処分には控訴人の主張のような違法はないものというべきである。

以上の次第で、控訴人の本訴請求は、これを失当として棄却すべきであり、これと同旨の原判決は相当であつて、本件控訴は理由がないから、これを棄却することとし、控訴費用の負担につき行政事件訴訟法七条、民事訴訟法九五条、八九条を適用して、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官輪湖公寛 裁判官武田平次郎 裁判官木原幹郎)

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